2013年8月、私はピースボートの企画に参加し、脱原発に向けたドイツの事情を学んできました。
コーディネーターはベルリン自由大学教授であるミランダ・シュラーズさんです。
メルケル首相は福島原発事故ののち、「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」を設置しましたが、彼女は17人の委員のうちの一人です。
『ドイツは脱原発を選んだ』(岩波ブックレット、2011年)の著者でもあります。
ちなみに委員ですが、17人の委員のうち、原子力の研究者は一人もいません。
「どのようなエネルギーが提供されるべきかは、電力会社ではなく、社会が決めるべきと考えられたからだ」そうです(上記『ドイツは脱原発を選んだ』44ページ)。
そして、「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」は全ての原発を廃止することを内容とする答申を行いました。
その後、ドイツでは2011年7月に「脱原発法」が制定され、2022年までにすべての原発が廃止されることになりました。
ドイツを原発廃止に導いた主な要因は、国民の世論です。
特に気になったのは、日本と違い、若者も積極的に政治に対して意見を表明し、デモも頻繁に行われていることでした。
そして再び権力者が原発推進に転換しないよう、国民は十分な警戒を怠っていません。
確かに原発をやめることでコストは高くなります。
しかし、チェルノブイリ原発事故(1986年4月)に続き、原発が危険なことを福島は再び事実で証明しました。
そして、「放射性廃棄物の管理」には10万年もかかりますが、「1世代の利益を200世代あとの子孫にまで負わせることはできない」といった主張がドイツでは支持されました。
さらには、原発を推進するよりも原発を廃止したほうが多くの雇用が生まれています。
こうした事情でドイツは脱原発に向けて動き出し、風力、太陽光発電などへの移行が進んでいます。
また、原発に頼らずに自然エネルギーを活用しようとする一方、エコにも配慮した政策がとられています。
駅や市役所などは、暑い時には窓を開けて風通しを良くし、寒い時には太陽の光で部屋の中が暖かくなるようにするなど、「エコ」にも気を配った設計がなされています。
個人住宅でも、エネルギー効率の良い「パッシブ・ハウス」が建てられてきています。
廃炉になった原子力発電所ですが、たとえば高速増殖炉のあった「カルカー」は現在、写真のように遊園地になっています。
ドイツではこのように脱原発にむけて政策転換がなされるのに対して、「福島第一原発事故」の当事国である日本では、安倍自民党政権のもと、再び原発推進に向けた政治が行われています。
こうした状況に関してミランダ教授にどう思うか聞いたところ、
「信じられない」
「何を考えているんだ」。
正直、とても恥ずかしかったです……。
ミランダ教授は『ドイツは脱原発を選んだ』でも以下のように述べています(50―51ページ)。
「ドイツ人が日本についてまず疑問に思うのは、広島と長崎に原爆を落とされたにもかかわらず、どうしてこれほどたくさんの原発を持っているのか、ということである。これはドイツ人には到底理解できない。2つめは、日本は地震が多い国であるにもかかわらず、なぜ原発をつくったのか、ということである」。
「日本には理想がないとは思わないが、企業が利益を追求する力が非常に強く、理想の力を弱めているのではないだろうか。まるで、政治を動かしているのは企業であるかのようだ。東日本大震災後の今こそ、政治に倫理を導入することが求められているのではないだろうか」。
ミランダ教授のこうした発言、日本はどう受け止めるべきでしょうか?
日本では最近、小泉元首相が「原発はやっていけると言う方が楽観的で無責任だ」と述べていますが、ドイツでの議論のように、私たちの時代の「ツケ」を200世代の子孫にまで負担させることをどう考えるべきでしょうか?
(飯島滋明)
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